episode1-1
29歳の誕生日
十一月某日。
千葉ちゃん、二十九歳の誕生日である。これから始まる『二十代最後の一年』を迎え入れる特別な日である。記念すべき、二度と訪れない二十九歳の誕生日である。
そんな日に、まさかひとりぽっちだなんて……。
こんなはずじゃなかった。だって十月にはラブラブの彼氏がいたんだから。
誕生日の五日前に突然、何の前触れもなくフラれた千葉ちゃん。
とても空しい、そして悔しい。
別れる前日まで「誕生日どこ行こうか?」なんて話を振ってきた前カレは、「やっぱり美鈴のためにも別れた方がいいと思うんだ」とサラッと言ってのけた。「私のためとか言わないでよホントにズルイよね!」と冷たい声を出すと、黙り込んだカレ。ジ・エンド。男女の関係ってこんなに簡単なものだっけ?
とにかくその前カレのおかげで、千葉ちゃんは二十九歳の誕生日をひとりきりで過ごすことになったのだ。
ひとりで過ごすって言ってもね……
予定がない。
仕事もない。
お金もない。
特別したいこともない。
普段ならベッドの上で一日中過ごせるのに、いやむしろ過ごしたいのに、誕生日は何か特別なことをしなければいけないと掻き立てられる。
それなのに誰からもメールがない。誰からも電話がない。
携帯壊れたんじゃないかと疑いたくなる。今まで一度も壊れたことなんてないのに。
