episode1-2
29歳の誕生日
さすがに誰にも会わずに、誰とも会話をせずに誕生日を終えるのは悲しかったので、とりあえず美容室の予約を入れてみる。
誕生日割引のポストカードが届いていたし。
夕方に美容室に行くと、担当のKさん(女性)が笑顔で迎えてくれる。
ポストカードを提示し、前髪カットをオーダーする。
せっかく10%割引なんだからもっと高いメニュー選んだ方が得だよな、と貧乏性な自分が顔を出したが止めておいた。
バッサリ切ってイメチェンして似合わなかったら、それこそ悲劇の誕生日になるし。
Kさんはわざわざ誕生日に美容室に来た寂しい千葉ちゃんのためにヘッドスパをしてくれた。まさに極楽気分。
どうして頭のマッサージってあんなに気持ちいいんだろ。
大満足。
あっと言う間にヘッドスパが終わり、鏡の前に案内されると、小さなテーブルにモンブランとアイスティが置いてあった。
「お誕生日おめでとうございます!」
Kさんは可愛らしい笑顔を向ける。嗚呼、今日初めて「おめでとう」って言ってもらった。
感動。
Kさん、君は営業上手だよ。これからもずっとKさんを指名するからね! と心の中で誓い、ワンオクターブ高い声で「ありがとうございます❤」と返すものの、そこには大きな問題が。
千葉ちゃんはモンブランが食べられないのだ。
けれどKさんの好意に泥を塗るなんて出来ない。
半ばヤケクソになり、ガツガツとモンブランを口に運ぶ。意外とフォークが進む。
そしてあっという間に完食! モンブラン、割と美味しい!
二十九歳にして初めて知った味。よかった二十代のうちに知ることが出来て。ひとつ食わず嫌い克服だ。(自分では買わないけど)
すっかり満足した千葉ちゃんは家に帰りたくなかった。
帰っても誰もいないし。
