episode11-1
29歳、とあるサタデー
普段は一日の中に予定をあまり詰め込まない千葉ちゃんである。
しかし丁度いま、深夜ドラマの脚本協力と舞台脚本を同時進行中の千葉ちゃんは、今日はこっちで明日はあっち、などと余裕あることを言っていられない。
さらに月三本エッセイを書き、毎週日曜の創作会の原稿を書くと、昼寝をする時間もない。しかし不思議なものでこんなに忙しくても、お金はないのである。
しょうがないので近所のスーパーの西友では、いつもセゾンカードを切っている。たぶん千葉ちゃんはセゾンカードがないと生きていけないのではないかと思う。
それはさて置き、千葉ちゃんが久しぶりのお出かけでウキウキしていたのが、五月十五日の土曜日である。
朝九時に目覚めた千葉ちゃんは、まずいつも通り地元のEカフェに足を運んだ。お出かけの前に、深夜ドラマの脚本の直しをするためだ。あらかじめK監督が直して赤が入っている原稿に、青で台詞直しを入れていく。読み進めるうちに、誰が直しを入れたのか知らないが黄色い文字が現れた。白い原稿に赤青黄色。まるで信号機である。
ちなみにドラマ自体は金貸屋の話で、ヤクザとかも出てきちゃったりするけれど、千葉ちゃんは色鮮やかな原稿を見て、ちょっと楽しくなってきた。まるで白い原稿の上にアートをしている芸術家の気分である。ちょっと青の割合が多いから、ピンクを入れてみよう。このページは赤過ぎるから緑を入れた方が……と全く脚本の直しとは関係ないことを考えてみる。しかし本当にパレットの様に色鮮やかな原稿を送ったら、きっとプロデューサーは激怒し、さらに二度と仕事が貰えなくなってしまうので、頭の中の妄想だけで終わらせた。
さて約三時間原稿に集中した千葉ちゃんは、りんかい線の国際展示場駅へ向かった。デザインやアートをしている人の間では有名な、デザインフェスタに乗り込むためである。日本中から、いや世界中から出展者が集まるという、ビックなイベントなのである。
日本語教師のMちゃんと合流し、エネルギーに溢れた若い人々を掻き分け、会場に入り込む。入口を通り抜け、エスカレーターで下に降りると、ドデカイステージがあり、ファッションショーをしていた。
装飾系の専門学校の人たちの作品お披露目だろうか。ステージの横を歩きながら、一瞬千葉ちゃんはファッションショーのステージに潜り込んでやろうかと思ったが、今日の千葉ちゃんの格好は至ってシンプルだったので、やめておいた。
それにステージを歩いている人はとても若く、メイクもバッチリして、モデルになりきっていたので、千葉ちゃんの出る幕ではなかった。
千葉ちゃんは自分の妄想の中だけでステージを歩いた。こういう時、本当に想像力が豊かだと得した気分になる。
