episode18-1 29歳、ひとりで花火大会
季節は夏である。
連日の猛暑で、外を五分でも歩けば汗が滲じみ、肌がジリジリと焼ける。食欲がなくなり、やたら麦茶が飲みたくなる。
夏は暑い。そして千葉ちゃんは夏が嫌いだ。
暑いと思考回路がやられてしまい、物事を冷静に判断出来なくなるのである。とにかく脚本は考えて悩むことが仕事のようなものなので、夏の暑さは千葉ちゃんの仕事に支障を出す。そして暑いとヤル気が出ない。ヤル気が出ないから昼寝でもしようとしても、あまりの暑さに眠れない。
夜になると気温が下がり少しは過ごしやすくなるが、今度は蝉の鳴き声がうるさくて、原稿に集中出来ない。全くもって、夏は仕事がはかどらない。
さて夏嫌いな千葉ちゃんではあるが、夏の風物詩の花火は大好きである。
自分で振りまわすのも好きだし、打上げ花火を眺めるのも好きである。
しかし、人混みは苦手である。なので花火大会には数えるほどしか行ったことはない。東京へ来てからは二回だけ。一回目は調布花火大会。二回目は群馬県伊勢崎花火大会。
今年は久しぶりに花火でも行こうかな。何せ二十代最後の花火だし。
そんなことを呆然と考えていた時、電車の広告が目にとまった。
『第二十九回 調布市花火大会』
第二十九回!? 千葉ちゃんと同い年ではないか。
千葉ちゃんは『これだ!』と手を叩き、調布市花火大会に乗りこむことを決めた。久しぶりに浴衣でも着ようか、髪をあげて、大きな扇子を持っていこう。千葉ちゃんは電車の中で妄想世界に浸った。
しかし広告を見た日以降、なぜだかドタバタした毎日が続いてしまい、千葉ちゃんは、花火の日程をスッカリ忘れていた。暑さのせいで忘れっぽくなっていたのである。
七月二十四日土曜日。
知人Y君に、「俺、今日調布の花火行くんだけど、行ったことある?」と聞かれ、千葉ちゃんはハッとした。花火大会、今日じゃん!
運悪く千葉ちゃんはその日、パソコンやら本やら、大荷物だった。そのくせ眼鏡は持ってきていなかった。更にその日はミニスカートをはいていた。「集まれモスキート、千葉ちゃんの血、美味しいよ!」という格好だった。
千葉ちゃんは一瞬考えた。行こうか、行くまいか。
行くなら河原でひとり。
行かないなら家でひとり。
行っても行かなくてもひとり。
だったら河原でひとりビールを飲みたい、つまみはもちろん打上げ花火。
ということで、千葉ちゃんはひとりで花火大会に乗りこむことにした。
知人Y君に「私も今日行く!」と答えると、Y君はニヤニヤした顔で「なんかオシャレしてると思ったんだよな」と勘ぐって来たので、「ひとりで行くんだけどね」と答えると、「なわけないじゃん!」と自信たっぷりに言われた。
なぜひとりで花火に行くことが「なわけないじゃん」なのか分からなかったが、反論するのもバカバカしいので、流しておいた。
