episode19-2 29歳、最後の夏休み(前編)
利根川に到着すると、現地ガイドのパク(国籍不明・男性)がタドタドしい日本語でラフティングの危険性を説明する。
しかし余り日本語が上手ではないので、何を言っているか分からない。
けれど誰も突っ込みを入れたり、聞き返したりすることなく、うんうんと頷いている。絶対に分かっていないのに。
千葉ちゃんは一抹の不安を抱えつつ、参加者にならって、川岸に移動した。
まずは入水である。
約50㍍下流の突起した陸地まで、川に流されて移動するらしい。
順番に身ひとつで川に入っていく参加者達。まるで何十もの大きな桃が流されるかの如く、成人の人達が順番に流されている。
異様な光景である。
千葉ちゃんは泳げないので、川に入ることを躊躇したが、後ろがつっかえてしまうので、意を決して川に身を投げた。
川の水は思いのほか冷たかった。汗がにじんでいた体をチクチクと刺す。陸地に到着した時には、寒さで鳥肌が立つほどだった。
さて、川から上がるといくつものボートが並んでいた。
ボートは八人乗り。ボート一基にひとりのインストラクターが付く。
千葉ちゃん達五名は、ふたりで参加していたカップル(推定年齢・三十代)と一緒のボートに乗り込んだ。
問題はインストラクターである。出来れば日本語を流ちょうに話せる人が安心だ。突如、Mちゃんが耳打ちして来た。
「見て、カッコいい人いるよ!」
千葉ちゃんは基本的にカッコいい人に興味がないので、なぜMちゃんがそんなことを言うのか分からなかった。
「別に容姿なんてどうでもいいじゃ……んんん?」
何気なくインストラクターの集団を見た千葉ちゃんだったが、その中でダルそうに佇む男性を見て、目を見開いた!
金髪のアメリカ人!
黒髪のインストラクターの中だと、ひと際目立つ、背が高くて金髪のアメリカ人インストラクター様❤
「オウノウ、レアリー???」
千葉ちゃんは祈った。ライアン(仮名)が千葉ちゃん達のボートに乗ることを。そしたら千葉ちゃんはライアンの隣の席を陣取り、終始アメージンググレースを唄うのに。
インストラクターの集団が近づいて来る。
千葉ちゃんは瞬きをせずにライアンを見つめた。それが原因かどうか、ライアンは千葉ちゃん達には見向きもせず、男子大学生達のボートへ向かったではないか。
千葉ちゃんは小さく舌打ちした。
「ちっ、ゲイか!」
そして千葉ちゃん達のボートに向かって来たのは、日本人インストラクターのJ氏(推定年齢三十代後半・男性)である。
そしてこのJ氏が、千葉ちゃん達の楽しいリゾートをぶち壊すとんでもないヤツだったのだ。
