episode21-1 29歳、ニアミス女王
あまり大きな声では言えないのだが、千葉ちゃんは友達の間でひそかに『ニアミス女王』と呼ばれている。
ニアミスとは文字通り、とっても近いミスのことである。コピーライターの糸井重里的に言うと、『言いまつがい』である。ニアミスと言っても、千葉ちゃんはカツゼツが良い方なので、噛んでしまったり、舌が回らないというワケではない。
根本的な過ちを犯すのである。
きっとこれは千葉ちゃんのテキトーな性格が起因している。
二十九歳、千葉ちゃん、女性としては大したことのないことだし、時にそれがチャーミングだったりするんだけど、二十九歳、ライター、千葉ちゃんとしては許されない失態なのである。このままニアミスがエスカレートすると、今後仕事が来なくなる可能性もないとは言えない。どうにかしなければいけないのだ。
かれこれ五年ほど前のことである。
千葉ちゃんが久しぶりに北海道へ遊びに帰った時のことである。
ユニクロ札幌コスモ店時代の友達三人が、新千歳空港まで車で迎えに来てくれて、千葉ちゃん達御一行様は千歳から札幌まで気持ちよくドライブをした。
年上のYちゃんが車を運転し、千葉ちゃんは助手席で鼻歌を歌った。
わざわざ車を出してくれたことに感謝していた千葉ちゃんは、ガソリン代くらいは割り勘にした方がいいんじゃないかと思い、運転席のYちゃんに気を遣って尋ねたのだ。
「Yちゃん、ガソリン代……セッカンしようよ?」
するとYちゃんはニヤニヤしながら千葉ちゃんを見た。
「ちーばー、折檻はしないべ」
頭の中にはきちんと『折半(せっぱん)』という言葉があったのだ。なのに口から出たのは『折檻』。千葉ちゃんは大笑いする友達を見ながら、自分の頭をポコポコ叩きたくなった。
さて数日間、思う存分北海道をエンジョイした千葉ちゃんは、東京に戻ると、想い出話を友人のKマンに聞かせた。
Kマンは旭川出身のトランペット奏者である。
数ある北海道の想い出の中で、千葉ちゃんがKマンに力説したのはスジコについてであった。千葉ちゃんはスジコのお結びが大好物なのだ。
東京でホンモノの鮭のスジコを食べたことがない千葉ちゃんは、Kマンに興奮気味に訴えた。
「いい具合に塩味が効いていてさ、歯ごたえもあってさ、飲み込んだ後に口に残る後味も何とも言えないよね。お酒飲むと無性に食べたくなるけど、ご飯にも合うから、アレがあれば何杯でもおかわり出来るよ。あーあ、北海道で食べたスジオ、最高だったなぁ❤」
Kマンはニヤニヤしながら千葉ちゃんを見た。
「千葉さん、スジオって誰ですか?」
