エピソード

episode23-1 29歳、お引越し準備 前編

最近の千葉ちゃんがお仕事以外に何をしているかと言うと、それは『お引越しの準備』である。
来る日も来る日も、いらないモノといるモノを選別し、燃えるモノと燃えないモノを分け、ゴミ捨て日を確認し、家とゴミステーションを何往復もする生活である。
千葉ちゃんが手放しで信用する、トルコ人占い師・R氏に太鼓判を押された『人生すべてが上手く行く部屋』は、他の誰かに契約されてしまい、一度は引越しを諦めようとしていたが、来年の三月の契約更新時には嫌でも引越さなければならない千葉ちゃんは、めげずに不動産で物件を物色し、やっと満足いく物件を見つけた次第である。その部屋の住所をR氏にメールしたところ、『ZETTAIOSUSUME』と返って来たので、きっと千葉ちゃんの人生は今より上手くハズである。

さて、そのお勧め物件に申込みをし、正式な契約を結んだ千葉ちゃんの元に数本の電話がかかって来た。
引越し業者からの営業電話である。
A引越センターとS引越センター。
ふたつの引越し業者は無料見積りをさせて下さい、と千葉ちゃんに申出た。千葉ちゃんはふたつの引越センターと別々の日にアポを取った。
まず初めにやって来たのはA引越しセンターである。
夜七時に家に来ると言っていたA引越しセンターの担当者(推定年齢三十代前半・男)は、前の案件が長引いてしまったらしく、夜九時過ぎにやって来た。
夜遅くに知らない男性を家に上げるのはどうかと思ったが、引越し業者が決まらなければ引越しが出来ないので、やむを得ず玄関を開けた。
その担当者は痩せているのに額から物凄い量の汗をかき、髪の毛はシャンプーしたての様に濡れていた。
そして来訪が遅れてしまったことに対し、何度も何度も頭を下げた。
「頭をあげて下さい。汗が落ちるから」とは言えず、千葉ちゃんは「大丈夫です」と繰返した。
その後、担当者とモノに溢れた部屋をまわり、持っていくモノをリストアップした。
大きな靴箱、大きな食器棚、大きなダイニングテーブル、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、大きなドレッサー、大きな桐ダンス、大きな全身鏡、大きなテレビ、そしてシングルベッド。その他にも洋服や和服、本、DVD、食器、生活用品などなど。段ボール箱で三十箱位になりそうだ。
するとその担当者は千葉ちゃんに尋ねた。
「お幾らほどでお考えですか?」
千葉ちゃんは下手なことは言えないと身構えた。
千葉ちゃんが言った金額を目安にして、吹っかけてくるのは見え見えだったからだ。

 

 

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