エピソード

episode3-1
29歳のクリスマス

なんと『二十九歳のクリスマス』である。
鎌田敏夫脚本の大人気の連ドラである。
千葉ちゃんはまさか自分に二十九歳のクリスマスが訪れるなんて思ってもいなかった。だって千葉ちゃんにとってそれはドラマの中の世界だから。

当時まだティーンだった千葉ちゃんは、『二十九歳かぁ。きっと素敵な旦那様と大都会東京の億ションに住んでカッコいいクールなオトナのオンナになっているハズ』と信じて疑わなかった。
恐るべし妄想の力である。
この妄想力と夢見がちな性格が千葉ちゃんを脚本の道に進ませたのである。

ちなみに二十九歳の千葉ちゃんは、お母さんと東京のアパートに住んで、締切には背を向け、自分の悪い所から目を逸らす、オトナになりきれないオンナである。
一応性別上はオンナである。これが厳しい現実である。

さて、そんな千葉ちゃんの二十九歳のクリスマス当日。
千葉ちゃんは、非常に機嫌が良かった。
なぜならクリスマスイヴに勝ったからである。
イヴの夜、恋人と甘いひと時を過ごした世の女性たちは、きっと夢から覚めて呆然としているはずである。
新宿の某シティホテルでは、クリスマスの朝、ロビーが満員電車並みに混雑するらしい。チェックアウトの行列に並ぶカレを、まだかまだかとロビーで待つなんて悲劇である。
同じようにカレを待っている女の人と顔を合わせるのも気まずいし、その人のカレの方が素敵だったら悔しい。
千葉ちゃんがいつかシティホテルでイヴを過ごす時は、二十六日にチェックアウトすると決めている。

千葉ちゃんは決意新たにし、登山靴の靴ひもをきつく縛った。
今日は女友達のUさん(同学年・独身・カレシなし)と高尾山に登るのである。
本当はUさんと、屋久島で縄文杉に飾り付けをして讃美歌を歌おうと約束していたのだが、千葉ちゃんの個人的な諸事情により叶わなくなってしまった。
だからせめて高尾山である。

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