エピソード

episode8-1
千葉ちゃんの上京物語

去る二〇一〇年三月八日、月曜日。
この日は千葉ちゃんにとって、とってもとっても大切な記念日である。
まさに人生の転機を迎えた日であり、いまの千葉ちゃんがここにいるのは、この日のお陰と言っても過言ではない。
三月八日……、それは上京記念日である。
千葉ちゃんは九年前のこの日、身ひとつで北海道から上京をしたのである。右も左も分からない二十歳のうら若き乙女は、大都会東京への期待に胸をパンパンに膨らませていた。

朝の飛行機で羽田に降り立った千葉ちゃんは、シャトルバスに乗り池袋東口に向かった。そして東京の人の多さに圧倒され、池袋の地理に迷いながらも、何とか東武東上線に乗り込んだ。

千葉ちゃんのアパートは埼玉県ふじみ野市にあった。
レオパレスソレイユの一〇五号室である。千葉ちゃんがまず最初にしなければならないことは、レオパレス川越支店に行き、アパートの鍵を受取ることだった。
千葉ちゃんは東京での住まいを、札幌のレオパレスで決めた。事前に東京に来て不動産屋を回るお金がなかったからだ。
何せ千葉ちゃんの上京資金は航空券代を含め二十万足らずである。
無謀な金額だ。けれど、若さとは時に無謀なのである。

どうにかなる。何とかなる。きっと大丈夫さ。
ちょうどその頃流行っていた曲は、ウルフルズの『明日があるさ』である。CDを繰返し聞くうちに、千葉ちゃんは「世の中大抵のことは大丈夫」と意味もなくポジティブになったのである。
それにしても二十万だなんて、二十九歳の千葉ちゃんに言わせると、あり得ない金額である。 もしもいまニューヨークに引越すなら、少なくとも二百万は貯めてから出発するだろう。
なぜ二十歳の千葉ちゃんに、雀の涙ほどの資金しかなかったと言うと、『千葉ちゃん上京物語』は決して計画的なものではなく、衝動的なものだったからである。

 

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