エピソード

episode9-1
29歳、サクラサク

『二十九歳のひとりづくし』で井の頭公園ひとりボートを企画していた千葉ちゃんであったが、ボートを漕いでくれる男性からお便りがなかったため、実現せずに終わってしまった。誠に残念である。
ビーナイスのS社長は、「ひとりでボートのって池に落ちたらいいんじゃないですか。きっと誰か助けてくれますよ」とアドバイスしてくれて、一度は強く納得した千葉ちゃんであったが、もしも誰も助けてくれなかった時のことを考えて思いとどまった。
ずぶぬれで電車に乗るのは辛い。それに千葉ちゃんの必需品の携帯電話・ノートパソコン・デジカメが池の水で壊れると非常に困るではないか。経費で新品を購入してくれるなら話は別だけれど……。
というわけで、千葉ちゃんは井の頭公園を諦めたが、決して桜を諦めたわけではない。何せ二十代最後の桜である。
二十九歳の千葉ちゃんは、駒沢公園と青山学院大学で桜を見た。

四月三日、土曜日。その日はあいにくの曇り空で、気温も十四度くらいまでしか上がらず、冷たい風が吹いていた。そして肝心の桜は五分咲き程度。
以前から計画していた駒沢公園お花見会の日に、こんな中途半端な状況である。今考えてみると、この状況は、この日次々と千葉ちゃんに襲いかかる、悲劇の前兆であった。

まず悲劇パート1である。朝目覚めた千葉ちゃんは、首に違和感を覚えた。
ベッドから体を起き上がらせ、首を左右に振ろうとすると、肩甲骨から上に激痛が走った。どうやら寝違えたようである。寝る事が大好きな千葉ちゃんは寝違えることもしばしばあったが、こんな激痛は初めてである。首が曲がらない。右も左も上も下も向けない。まるで透明なコルセットに固定されているようである。少しでも動かそうものなら、骨が軋むような痛さが走る。
千葉ちゃんは自分の間の悪さに辟易した。お花見なのに。
桜は上に咲いているのに。千葉ちゃんは首を固定しつつ、何とか洗顔をしてアパートを後にした。

 

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